若男水産株式会社

前田 若男さん

Interview

インタビュー

”食の宝庫”淡路島を支える生産者たちの
熱い想いをご紹介します。

新たな海の風物詩を育て、淡路島に恩返しを

若男水産株式会社 前田 若男さん


淡路島の海の幸と言えば、夏はハモ、冬はトラフグのイメージが定着しています。そんな中、春や秋にも何か名産品はないかと考えるうちに浮かび上がったのが、サクラマスでした。「淡路島3年とらふぐ」の立役者でもある前田若男さんは、2015年から新たにサクラマスの養殖にも取り組んでいます。

福良湾の水温の低さを活かし、養殖に挑戦

サクラマスの養殖の舞台である福良湾は、淡路島の南端に位置し、鳴門海峡の潮流の影響で、全国の養殖地の中でも海水温が低い場所となっています。「意外に感じるかもしれませんが、日本海よりも瀬戸内海の方が水温が低いので、福良湾はサーモンやサクラマスなどの養殖に適しているのではないかと以前から言われていました。トラフグの養殖が忙しく、なかなか手をつけられませんでしたが、繁忙期がちょうど終わる頃に入れ替わりで取り組むことができます。いい機会だと思って始めました」。

サクラマスは準絶滅危惧種にも指定されており、生産が難しいと言われています。水温18℃を切っていないと死んでしまうため、寒くなり始める12月中旬から稚魚を育てます。初年度は餌の量や水温の管理など、マニュアル通りに行っていたところ、一部の個体は十分に成育したものの、その大きさにもムラがあり、約半数を失ってしまう結果に。「最初は順調に大きくなっているように見えたのですが、いつの間にか数が減っていたんです。観察していると、小さい個体が餌を食べられず、餓死しているようでした」。



魚の性質は違えど、じっくりと丁寧に育てる

他のサーモン類と比べても、サクラマスは特に臆病な性格で、生簀で餌をあげても寄り付かず、底の方で静かに食べているそうです。「トラフグは餌をあげた途端に、バーっと寄ってきて食べますが、サクラマスは上品というか、ガツガツと食べることはないですね」。

そこで、前田さんは約2ヶ月間育てた後、サクラマスを1匹ずつ手作業で選別し、大きさによって生簀を分けることにしました。そうすると餌が食べられない個体が減り、共食いも防げるようになり、生存率は95%に上昇しました。「魚によって育て方や性質は異なりますが、じっくり手間をかけて育てるという点では同じかもしれませんね。ただ、上手くいってるんじゃないかと思っても、次の年は上手くいかないことも多いですし、毎年勉強ですね」。

ちなみに、実は餌にも淡路島らしい工夫が凝らされています。「淡路島産の玉ねぎの皮を餌に加えているんです。ポリフェノールがたっぷり含まれているので、新鮮さを保つことができるんですよ」。


淡路島のためになることをこれからも

試行錯誤を経て、安定して供給できるようになったことで、念願の「淡路島サクラマス」が誕生しました。春を彩る新たな風物詩として、淡路島に足を運ぶ人が増えることが期待されています。ゆくゆくは島外へも出荷できるように生産量を増やすことも目標です。

「最初は養殖業と観光業はまったく関係のないことだと思っていましたが、『淡路島3年とらふぐ』を売り出すようになってから、自分たちの作っているものが観光業を担う一端であるということに気付きました。今まで以上にやりがいを感じるようになりましたね。今後も淡路島のためになるようなことを継続しながら、新しいことにも挑戦をしていきたいです。ぜひ、春は淡路島で舌の上でとろけるような『淡路島サクラマス』をご賞味ください」。