手塩にかけて育てた一流の肉用牛を、淡路島から全国のブランド牛の産地へ
五色ファーム 坂本正和さん
1983年に五色ファームを設立した坂本正和さんが育てた牛たちは、牛肉の品評会である淡路肉牛共進会にて、もっとも評価の高い「グランドチャンピオン牛」に何度も選出されています。のどかで自然が豊かな淡路島は、肉牛の飼育にぴったりの環境。全国のブランド牛のふるさととして、その長い歴史を刻んできました。
五色ファームを立ち上げた頃は30代だったという坂本さん。当時は兵庫県で但馬牛をはじめとする肉用牛の肥育を推進していたこともその追い風になったと振り返ります。「まだ若かったからか米を作っているだけでは退屈に感じられて(笑)、以前から牛の繁殖をやっていたので、同時に肉牛の肥育も始めました」。
いい牛を育てるためには、とにかく手間をかけてあげること
現在は繁殖も一部行いながら、約240頭の肉牛を育てています。牛たちは毎日乾いた草や粉末状の餌を食べてのんびり暮らします。飲み水も大切で、カルキの入っていない井戸水でなければいけないのだそうです。また、牛は暑さにとても弱いため、夏場はミストシャワーで牛舎内が涼しくなるような工夫も凝らされています。それに加えて、月に数回のビタミン剤投与や、人間のように血液検査や血圧の測定を行い、牛たちの体調には常に気を配っているそうです。
牛を育てるコツは、どれだけ手間をかけてあげられるかだと坂本さんは話します。「牛たちは食べたら寝て、食べたら寝て……の繰り返しです。牛の寝方によっては、体調不良のサインであったり、お腹にガスが溜まって起きられなくなっていたりと問題があることもあります。とにかくこまめに様子を確認し続けないといけません。人間の子育てと似ているかもしれませんね」。
良質な肉牛を育てるにはストレスは禁物ですが、牛舎内でのケンカはしょっちゅう。「基本的には牛はこわがりで大人しいのですが、怒ると手がつけられなくなります。できるだけ穏やかに過ごせるように世話をしています」。珍しいものを見つけたらすぐに触りに来るので、道具などを牛舎に置き忘れないようにするなど、細心の注意を払っています。
淡路島は和牛にとって重要な地。そのブランドを広めたい
坂本さんのような肥育農家は淡路島には約24件。淡路島で飼育されている但馬牛には長い歴史があります。1300年以上もの間、純血が守られている但馬牛は兵庫県内での飼育が決められており、他府県産の牛との交配は許されていません。但馬牛は全国の黒毛和牛のルーツであり、ブランド牛の99%は但馬牛の血統を持っています。そして、その6割以上が実は淡路島出身なのです。
淡路島で育てられた仔牛の多くは、神戸ビーフをはじめ、松阪牛や近江牛など、全国の一流産地の肥育農家の元へと旅立ちます。「日本中で血統や美味しい肉質を認めてもらっているのに、淡路島の名前が一切出てこないという苦悩があったんです。そういった経緯から、生産者や地元のお肉屋さんたちが集まって、1987年に淡路ビーフブランド化推進協議会を結成。そして、淡路島の名前が入った『淡路ビーフ』が誕生しました」。
正式に淡路ビーフが地域団体商標登録されたのは2006年。淡路島で育った期間が一番長い牛を「淡路牛」と呼びますが、それとは別に淡路島で生まれた牛で、厳しい認定基準をすべてクリアしたものが「淡路ビーフ」となります。淡路島が観光地として注目されていることや、ふるさと納税の返礼品など、淡路ビーフの需要は右肩上がり。しかし、仕入れ値の高騰や畜産農家の高齢化など、問題はたくさんあります。「淡路ビーフになるか神戸ビーフになるかは、購買するお店で決まります。手間や費用は同じなのですが、実際の購入額は大きく違います。その差はブランド力だけなんです。『淡路ビーフ』としてのブランド力を上げ、価値を高めていきたいですね」。